リードレスが主流になるかも?

2017年6月3日土曜日

お仕事 時事ネタ

リード不要、心室に留置するペースメーカー登場
高齢者や透析・静脈閉塞症例には福音、将来は主流に

日経メディカルオンラインより

カテーテル操作により右心室内に留置し、本体先端の電極から直接ペーシングする「リードレスペースメーカー」が我が国でも承認された。従来のペースメーカーでは避けられなかった、本体を植え込んだ皮下ポケットやリードに関連した様々なトラブルから解放される。研究開発は急ピッチで進んでおり、近い将来「リードレス」が主流になると見られる。

心臓ペーシング治療に新たな時代が始まった」――。杏林大学循環器内科教授の副島京子氏は、リードレスペースメーカーの実用化をこう表現する。

前胸部皮下に本体を植え込み、鎖骨下静脈から心腔にリードを留置する現在のペースメーカー治療は、デバイスの改良が進み手技的にはほぼ完成された治療法になった。だが、リードの断線や静脈閉塞、また本体を植え込む皮下ポケットの感染や血腫といったトラブルが避けられない。最近の臨床研究でも、5.8年の追跡でリード関連の合併症が約11%、皮下ポケット関連が約8%発生したと報告されている。

「リードレスペースメーカーなら経静脈リードも皮下ポケットも不要になる。これらに伴う合併症のリスクや生活制限がなくなる分、患者の安心感が高まりQOLの向上も期待できる」と副島氏は強調する。

世界で初めて実用化されたリードレスペースメーカーは、米アボット社(それまでの発売元だった米セント・ジュード・メディカル社を2016年にアボット社が買収)の「Nanostim」という製品だ(写真1左)。欧州で2013年10月に承認された。我が国でも治験が行われているが、まだ承認申請には至っていない。
既に実臨床で使われているリードレスペースメーカー
左)アボット社のNanostim(日本未承認)
右)がメドトロニック社のマイクラ
2番手として開発され欧州で2015年4月、米国で2016年4月に承認されたのが、米メドトロニック社の「マイクラ(Micra)」だ(写真1右)。今年2月14日には、我が国でも承認された。保険償還価格の決定を待ち、近く発売される。

マイクラは直径6.7mm、長さ25.9mm、容積1mL、重さ1.75gで、大きさは現在のペースメーカーの約10分の1という。専用のデリバリー用カテーテルで鼠径部から大腿静脈に挿入して右心室まで運び、心尖部に近い心室中隔部に固定する。先端の陰極と本体後部の黒いリング状の陽極間に電位差を発生させて、ペーシングする仕組みだ。
マイクラ留置のイメージ右心室に本体を直接留置するので、
前胸部の皮下ポケットや鎖骨下静脈からのリードが不要になる
本体が脱落すると重篤な合併症を起こしかねないので、心筋には確実に固定する必要がある。マイクラでは、本体先端の「タイン」と呼ばれる形状記憶合金でできたツメで固定する。

デリバリー用カテーテル先端の外筒の中に本体が収められており、本体を心筋に押し付けながら外筒を引き戻して留置する。伸展した状態で収納されていたタインが外筒から解放され写真1右のような鉤型に戻る際、釣り針のように心筋に刺入することで固定される(図1)。Youtubeで公開されている留置の動画を見ると分かりやすい(下画面)。

留置部位が適さなかったり固定が十分でなかった場合は、本体を外筒内に戻すことでタインの展開をやりなおすことができる。ただし、タインの展開回数が多いと、心嚢液貯留のリスクになる。留置後、ペーシング閾値などを確認して問題がなければ、本体後部についている回収用の糸を切断して留置手技は終了となる。

デバイスの植え込みに必要な時間は30分程度と、皮下ポケットを作り経静脈リードを入れる現在のペースメーカーより短い。「植え込み時の侵襲度は、現在のペースメーカーよりも軽度」(副島氏)とのことだ。

我が国も参加した国際共同治験の成績は良好

我が国から杏林大学、横浜市立大学、国立循環器病研究センター、昭和大学が参加した国際共同治験では、植え込みを行った725例中719例(99.2%)で留置に成功した。安全性の主要評価項目である6カ月後のデバイスまたは手技に関連した合併症(死亡、デバイスの機能喪失、入院、入院期間の延長、システム修正)の回避率は96.0%で、事前に定めたパフォーマンスゴールの83%を有意に上回った。

治験は対照群を置いたランダム化比較試験ではなく、メドトロニック社が過去に行ったペースメーカーの臨床試験6件の全被験者(2667例)をヒストリカルコントロールとして、主要合併症などを比較した。マイクラ群の方が高齢で心房細動や弁膜症、高血圧などの合併症が高率だったにもかかわらず、植え込み12カ月間の主要合併症のリスクはマイクラ群の方が51%も少なく、有意差を認めた。

治験の運営委員を務めた副島氏は、「治験開始当初に最も心配された脱落は1例もなく、心臓損傷(心筋穿孔または心嚢液貯留)の発生率は従来のペースメーカー植え込み術と同等で、マイクラ群で問題となる有害事象は発生しなかった。ペーシング閾値も安定的に低く、植え込んだ患者の反応も良好だった」と評価する。

鎖骨下静脈が使えない患者や高齢者がよい適応に

低侵襲かつ合併症も少ないとして期待は膨らむが、現状のシステムでは心房のセンシングとペーシングができないので、ペースメーカーの動作としてはシングルチャンバーのVVIモード(心室でセンシングし自己脈が出ない場合に心室をペーシングする)に限られる。

ペースメーカーの適応となる不整脈は、主に房室ブロック、洞不全症候群、徐脈性心房細動の3つ。患者数が多い洞不全症候群や房室ブロックでは、現在は心房にもリードを入れるダブルチャンバーのDDDモード(心房と心室の両方にリードを入れ、心房の自己波が出ない場合は心房をペーシングし、一定時間内に心室の自己波が出ない場合は心室をペーシングする)が選択される。

そのため、リードレスペースメーカーの適応となる不整脈は、もともとVVIモードが選択されている徐脈性心房細動、および洞不全症候群の中の徐脈頻脈症候群になる。どちらも患者数はそれほど多くない。

さらに、年齢という要因も加わる。国立循環器病研究センター心臓血管内科医長の岡村英夫氏は、「植え込み後、電池寿命によるペースメーカーの交換が発生しても1回ですむ年齢、つまり70~80歳代でないと勧めにくい」と話す。

臨床試験で推定されたマイクラの電池寿命は、平均12.5年。それだけ時間がたてば、本体は組織で被包化され容易には摘出できないだろう。そこで電池寿命の場合は機能を完全に切った上で、摘出はせず2個目を入れることになっている。3個まで留置可能との研究報告はあるが、このような臨床経験がない現時点では、余命が数十年ある若い患者はよい適応とはならない。

これに対し、リードレスが積極的適応となる条件もある。慢性維持透析で上腕に血液シャントを作成している場合、静脈閉塞のリスクがあるため、鎖骨下静脈へのリード留置は行えない。鎖骨下静脈が既に閉塞していたり先天的な奇形がある場合も同様だ。このような患者には、リードレスは待望のシステムといえる。

また、認知機能が低下した患者では皮下ポケットの傷を頻繁に触ってしまい、それが原因で植え込み直後にポケット感染を起こすことがあるという。認知症があっても、ペースメーカーの適応となれば植え込むことになる。ポケットがなければ感染も起こらないので、リードレスの方が安心だ。

ゴルフや水泳など、上腕を大きく動かす運動を頻繁に行いたいという患者の希望が強い場合も、リードレスは選択肢となる。

「房室ブロックや洞不全症候群では、ペースメーカー症候群や長期的な心不全リスクへの対応から、DDDモードが第一選択であることは変わらない。これらの患者に対するリードレスペースメーカーの適応は、併存疾患や患者の希望、年齢といった要因を踏まえた個別の判断になるだろう」と岡村氏。

現在、我が国のペースメーカーの植え込み件数は年間約6万件。上述のような制限があるので、リードレスペースメーカーに置き換わるのはこの中の数パーセント程度と岡村氏は推定する。マイクラの発売後、急速にリードレスに置き換わるわけではなさそうだ。

将来はリードレスが主流へ、メーカーは研究を加速

それでもリードレスペースメーカーが注目されている理由は、近い将来、新たなデバイスの開発でDDDモードや両心室ペーシングも可能になると見られるためだ。「心臓植え込みデバイスのメーカーはどこでも、将来はリードレスペーシングシステムが主流になるとして研究を進めているはず。今後、研究はより加速するだろう」と副島氏。

電池についても、心拍動で発電したり、デバイスに小型アンテナを組み込み体表から送った電磁波を電源としてペーシングする技術が報告されている。電池寿命が長くなれば、それだけ年齢の制限は緩和できる。

一方で新規性の高いデバイスだけに、未知のリスクがある可能性も考慮する必要がある。実用化が最も早かったNanostimは、電池の早期消耗が報告され昨年秋に新規植え込みが中止されている。マイクラも現時点では最長で3年ほどの臨床経験で、長期成績は明らかではない。

岡村氏は、「マイクラでは3年間の追跡で大きな問題は報告されておらず、現時点でもリスクを上回る利益があると考える。ただ、新しい留置手技だけに、心穿孔や心嚢液貯留といった重篤な合併症が増えていないか、特に導入初期は植え込み施設数を限定して慎重なモニタリングが必要だ」と指摘する。

副島氏も、「いわゆるデバイスラグがほぼなくなり、我が国でも新しいデバイスをすぐに臨床で使えるようになった。これは患者にとって利益となるが、海外での使用経験も短くなるので、未知のトラブルが発生する可能性といったリスクを取ることでもある。植え込みを決める際は、このことを患者に理解してもらってほしい」と話す。

アボット(セントジュード)Nanostim
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000013993.html

メドトロニック Micra
http://www.e-radfan.com/product/56730/

今年の2月に薬事承認が通ってたんだねぇ...!?
https://goo.gl/pyZV8w

全長26mm弱×Φ7mm弱(≒1c㎥)の本体を
心室内に留置...大きくないのかな?
(右心室のESV≒50c㎥)

留置部位への本体挿入は、
これ↓を使って行うんだね...
MRIには対応...今や当たり前!?

現時点では、
心室単腔ペーシング VVI(R)のみだけど、
近い将来にDDDやCRTも可能になるかも?

最大のデメリットは電池...
平均寿命が12.5年程度で、
電池切れの際は本体交換(摘出)は不可で、
本体を追加で留置となり、
3個まで追加可能とする報告もあるが、
現時点では、影響は定かではないので、
適応が限られてくる?

心拍動発電やワイヤレス(電磁波)充電などの
充電技術や容量の大きい小型電池の開発に期待ってとこだね

あと長期的なデバイス移動やら、
本体そのものの耐久性については、
これから観察していかなきゃならんようだね(苦笑)

現時点では適応が限られ、まだ実用的ではなさそうだけど、
各メーカー、開発に注力しているようだから、
遠くない将来、埋込み型ペースメーカーは、
これに取って代わられるのかもしれないね(笑)